知恵と愛情で地域を救う工夫例(初稿2007.1.28)
先日、調査で訪れた尼崎市内で、たまたま興味深い2つの事例に出会うことができましたので紹介します。
ストック活用型子育て支援施設
尼崎の主要駅前といえば、近年ファミリー向けの大規模マンション開発が盛んな状況ですが、阪神尼崎駅前で偶然発見したのが、ショッピングセンターの空きスペースを活用した子育て支援スペースでした。
阪神尼崎駅前では、駅前再開発事業の一環でショッピングセンター「アマゴッタ」が立地しています。このショッピングセンターは、地域密着型で多様な生活を支援することをモットーとしており、クリニックモールからイベントスペース、スーパー専門店街等々様々なサービス機能が組み込まれています。しかし、近年ますます厳しさが増す商業事情から1階に入店していたキッズプレイランド(幼児向けの遊具を集めた遊び場)が閉店に追い込まれ、空きスペースとなってしまいました。
そこに着目したのが、市内で子育て支援活動を展開する「キッズクラブぴょんぴょん」の石田園長でした。もともと幼児の活動に配慮されてつくられた施設であったため、内装等をそのまま活用して、子育て支援センターを運営する運びとなりました。
施設とは、あくまでも暫定的な利用契約を結んでいるという事情はあるものの、現在NPO法人格の申請を行い、「子育てつどいの広場事業助成」(厚生労働省)等の助成制度等にも申請して、活動の充実に努めておられるとのこと。事業実施にあたっては、曜日を定め、10時から16時までの時間帯で保育事業を行っておられました。
ファミリー居住が進むまちなかでは、このような施設や活動が芽生えてくることは自然な流れともいえ、また既存ストックを有効活用して事業展開するという鋭い目のつけどころに感心したしだいです。
関西で2店目の本格派コミュニティ・レストラン
個人的に地域密着型で福祉的な意味合いも持たせたコミュニティ・レストランのシステムに興味を覚え、各地の事例を研究していたところ、たまたま昨年12月に尼崎市内でコミュニティ・レストランがオープンしたとの話題を聞きつけ、早速出かけてきました。
尼崎市杭瀬という旧市街地のなかの空店舗にオープンした「みるくゆ」は、コミュニティ・レストランとしては国内13店舗目の例になり、関西では西脇市に次いで2番目の開業になるということです。責任者であり事業コーディネーターの山本英雄さんにお話をうかがったところ、開業までは、この道の先駆的な存在として有名な四日市の「コラボ屋」で研修を受けて、「ワンディ・シェフシステム」による運営をめざされたとか。
「ワンディ・シェフシステム」とは、「コラボ屋」が開発した事業スキーム(ビジネスモデル)であり、いわゆるプロでない日替わりシェフが料理を提供するしくみで、お店にシェフとして登録した人があらかじめコーディネーターと相談しながらメニューの構成を決め、当番の日に厨房を借りて調理し、料理を提供するものです。仕入れはシェフの自己負担、売上金から「みるくゆ」の運営協力費を差し引いた残りが利益になるとのこと。
もともと山本さんは調理師免許取得者で、毎回事前に日替わりシェフとのきめ細かな調整を行い、また出来上がった料理を試食されたものであるため、衛生管理も十分に配慮されたものです。現在「みるくゆ」では主婦をはじめとする12組のシェフ登録がなされ、なかには会社をリタイヤした人や出張シェフとして活動されている人、手打ちうどんを趣味にされている人など3名の男性シェフも活躍されているそうです。
1日20食限定の日替わりランチは11:30~14:00まで提供され、前菜やサラダ、メイン料理、スープ、デザートなどが組み込まれて800円という安価な設定がなされています。食後のコーヒーは100円で、これが障害者の方々の活動に役立てられるというしくみです。シェフによっては、その日のお品書きを楽しいイラスト入りで説明され、クリスマスやバレンタインデー等の記念日には素敵なお楽しみも企画中とか。中には主婦数人で参加して、メインディッシュ担当、デザート担当、BGMやテーブルコーディネート担当と役割分担して、総合的な見せ方を研究されている例もあるとのことです。
店や厨房、食器類を気楽にレンタルして、自由気ままなお店体験ができ、マイペースで店づくりの勉強ができるため、起業のためのテスト場所としての活用の道も開けそうです。(現在、登録シェフ募集中)
「障害を持つ人も元気な人も、共に働く喜びを大切にする場というものが、これからの地域社会には非常に重要です。そんなプラットフォームになれるような場づくりをめざしています。これからも各地にコミュニティ・レストランがどんどん増えて欲しい。将来はコミュニティ・レストラン同士の交流もできれば。」と山本さん。
コミュニティ・レストランは、少子高齢化が進む地域社会にあって、家族に替わって支え合う新しいタイプのコミュニティを構築するための実験なのだそうです。そして、「ワンディ・シェフシステム」とは、飲食店の運営をコミュニティ再生の場としてとらえ、「食」を切り口に、多様性を受け入れ、違いを認めながらそこに関わる人達の関係性を再構築する試みのひとつだとのこと。
「みるくゆ」の母体は、障害者支援センターNPO「アップストリーム」であり、昨年に施行された障害者自立支援法の影響により、深刻な運営危機に立たされる福祉事業の状況を改善し、地域社会の生活弱者の集う場づくりをめざされているものです。また「みるくゆ」が立地する杭瀬地区は単身高齢者も多いため、ニーズに応えて買い物代行を行うほか、家庭への配食サービスも検討中とのことで、総合的なコミュニティ・ビジネスの道を模索されているものです。
そもそもコミュニティビジネスの基本は、相互支援の運営で、利潤の追求を目的としないため適度に儲からないけれど、競争にも巻き込まれないから、持続性が高いシステムであるところが最大の魅力といえます。そして、夢や喜び、苦労を皆で分かち合い、助け合いの精神を育んでいける場, 地域に埋もれた人材にスポットが当たる場として、こういうシステムや場所がどんどん広がっていくことに期待したいと思っています。
以上、2つの事例をご紹介しましたが、いずれも地域に密着し、子育て世代や高齢者、障害をもつ様々な人が自分の居場所をもち、持続可能性の高いコミュニティを再構築する道を探る意味でも、非常に興味深い例になるはずです。
最後に、商業施設や住宅の空きスペースが埋まらないとお嘆きの事業者の皆さん、空間を貸して利益を追求するという考えに固執せず、こういう知恵のある方々に喜んでストックを提供するという姿勢を持たないと、本当の地域再生には取り組めませんよ!
文責:chie

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